へなちょこフリーター日記

おもしろおかしく生きてきたいね

蛇行記憶紀行

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桜の花は、水面に似ている。

 

ほころぼうとする桜の蕾に、去年ほど心を躍らせられない、自分の感性、ちょっと嫌いになりそうなんて、いっこうにぬくもらないガラス窓の向こう、やわらかな色彩に彩られていく日々を、労働にかすれた指先でなぞっていた。


どこへでも行ける。


正気を帯びはじめた足首と、弾力を取り戻した声帯が、行こう行こうと誘うから、音をたてない花の色の前では両手で耳を塞ぐのも忘れて、ただただ時間を切り取ることに、そういえば夢中だったな。


宇宙が途切れても、きっとかならずきれいなものなどありはしなくて、内臓に光をあてているだけ、それを水晶体や鼓膜や唇と結びつけて、感動していた。


生きていけそうな気がして。


頭に広げる地図を鮮明にしていけば、幸せになれるような気がして、きらきら、きらきら、ハンドルをにぎって、呼吸の速さに合わせて踊る幸せは、それはそれで正解ではあったのだけれど。


街のそこかしこで、視界をとらえる花房のすべてに、世界でいちばん美しいのはだあれ、だなんて問いかけはしないけれど、いまのこと、わたしのこと、じっと瞳で聞いてくれる、桜の花のそういうところが、ああー好きだなーって、今は思ってる。

 

水辺に佇むときと同じ気持ちで、けれど青色は頭上にひろくひろがっていて、くるくるまわる終わりのほうに、手のひらをかざして待ってみたりする。


揺れたり、ちぎれたり、虫や鳥がおとずれたりしながら、時間が、連続して、とどまって、速くなって、とおく、とおくなっていく。

 

これは、きっと、さみしいって気持ち。


一年前には確かに、周囲の春の気配と繋がり広がっていく中心に、桜の花はあったんだけれど、今は、桜だけがぷつんと途切れて、標本箱の中で永遠に春、みたいだ。


だからちょっと、終わりの予感さえ怖かったりする。今晩寝て起きたら、桜は終わりました、一面緑です、新緑です、初夏です、ってなっててもおかしくないんじゃないか、なんて想像してしまって……ああ、もうちょっとゆっくり、季節とかゆっくり、更新していってほしいです、、、地球!!

 

 

高架下を吹きぬける夜風にくすぐられては、あちらこちらの枝を怠惰そうに揺らす。誰かに待ちぼうけでもくらったんだろうか。少し心配になる無気力さで、桜並木は街灯のあかりに染まり、しずかに春を告げていた。


きっとあなたは来ない。そう確信できたからって、会いたいと思うこと、やめられなかった。

 

指の腹にこめた温度で、たちまち廃れる花びらも縁も、縁取りたくなるのは、あなただったからなんだよ。

 

届かないけどさ。

 

水鏡を透かしとおせる目でもって、期待の全部手放せていたら、愛してるって、あなたにもあなたにもあなたにも言ってあげられたのになあ、なんて、思うけど思うわけないだろ、ばーか。