へなちょこフリーター日記

おもしろおかしく生きてきたいね

人間のマニュアルください。

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「人間として生きていくからには、多くのものに目をつぶらないといけない。言葉が我々の目をふさいでくれる。たとえばあなたが車窓に目をやれば何か見えている。しかし、あなたは気づかぬうちに『言葉』をみているのです」

女子高生がクスクスと笑った。

「そんな感じ、私はちっともしないけど」

「そんな感じがしないから正気でいられるんですよ、お嬢さん」

 

森見登美彦『夜行』

 

 

なにかが燃えるにおいなんて、田舎じゃ珍しくもなんともない。でもふと気づくーー愛知は名古屋の真ん中で、ゴミを燃やすひとはなんていやしないんだ。

 

ヘリコプターが3機、さっきから上空でうるさい。バラバラバラバラ、空気が振動する。視界は灰色。だけど、誰も騒いだりしていない。

 

どこかで何かが燃えている。

 

今頃テレビじゃ、真上のヘリから送られた様子にテロップが舞って、怖いわねなんて言いながら夕飯をつくったりしてる。外で煙に巻かれる何も知らないわたしたち。

 

ヘリコプターは旋回を続けている。つまり、まだ消し止められていないのだ。

 

この煙はひとを焼いたかもしれない。少なくとも、つまらない日常を消炭にして、いまは、わたしの頬を撫で、粘膜を刺激している。

 

真っ赤な夕日は誰かの血を吸ったみたいで、自転車のペダルをこげどもこげども、報道ヘリの音からはなかなか逃れられなかった。

 

ーー普通なのだ。

 

ひとが死んで、燃えて、なくなって。そんなことは当たり前だとみんな知ってる。知っても忘れて日常をしている。

 

たった今、誰かに不幸が起こっていること、ニュースを目に耳にするまでほとんどの人は知らずに過ごすだろう。最後まで知らずに死んでく人もいる。煙をこわいと思わないひともいる。

 

都会の煙で燻されるのは、ひとのつくったもの。ひともそうで。

 

死神がみえるとしたらこんな風かもしれない。

逢魔が時を支配する報道ヘリ。死神は職務を全うするまで帰りはしない。

 

「ひとが死んでいるぞ」

 

その音は普段目をそらしている現実をつきつけてくるようで、だんだん泣きたくなってくる。耳障りだ、消えてしまえとおもってしまった己の残酷さに目をつぶることを、ヘリは許してくれなかった。

 

人間をしなくちゃならないのに、わたしの血は濁っていて、真っ赤に燃えるあの雲よりもきっと冷たい。だからといって、人間らしさの追求も度を過ぎれば血液は沸騰し、簡単に狂ってしまうろう。

 

36度5分の恒温動物でいるためのマニュアルはどうやら存在していない。綱の上の道化であるわたしたち。人間とそうでないものの間をぐらぐらと、今日も今日とて行ったり来たりしている。